著書紹介

  • 中村 敦夫: ごみを喰う男

    中村 敦夫: ごみを喰う男
    俳優で政治家経験もある著者が、ゴミ、産廃問題を下敷きに描く社会派推理。現場調査を重ねた意欲作。 ゴミを通して現代が見える。

  • 中村 敦夫: 「さらば、欲望の国」

    中村 敦夫: 「さらば、欲望の国」
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2004-10-21

10/9 朝日新聞【be】「逆風満帆」(中)

■俳優座を集団で退団
 この10年ほど政治家として理不尽な制度や政策と戦ってきた中村敦夫(64)の名が世間に知られるようになったのは、72年に大ヒットしたフジテレビ系ドラマ「木枯し紋次郎」だった。
 だが、それ以前は鳴かず飛ばずで、舞台俳優としてはついに芽が出なかった。
 もとは、俳優座にいた。先輩には仲代達矢や平幹二朗らがおり、養成所時代から一緒だった山本圭は、中村より一足先にスターになっていた。かたや中村は通行人Aといった端役ばかり。
 生活は困窮を極めた。ある冬の日、帰宅すると、6畳一間の部屋に泥棒のものらしき土足の足跡があった。「でもね、どうやら押し入れの前でUターンして帰っちゃったんだよ」。押し入れにあったのは布団と何冊かの本だけ。盗むものは何もなかった。
 俳優としては不遇だったが、20代で最年少の劇団幹事に選ばれ、海外の台本の翻訳や、脚本を手がけるようになった。劇団の演目をめぐり、新しい演劇をやりたい若手を代弁する形で、既定路線からはみ出せない幹部らと対立した。前衛的な芝居を独自公演したこともある。
 留学などで2度渡米し、帰国したあとも、ベテランと若手の溝は深まる一方だった。ついに71年、中村は市原悦子や原田芳雄ら若手の看板俳優らと共に、集団で退団する。
 「固定した分野でぬるま湯にいるのはいやでね。人生おもしろい方がいい。それに私はね、苦しいのが普通だった。生まれつき逆境の中にいたようなもんで」
 小説家を志しつつ新聞記者になった父と、東京の名家に生まれた母は駆け落ち同然で結婚した。だが福島の地元紙の支局長になった父は借金を重ね、女性問題も多く、夫婦げんかが絶えなかった。小学校に入っても運動靴が買えず、母が持ち物を質屋に入れて生活費を工面していた。
 「コメやみそをつけで買うでしょ。月末に集金人がやってきてトントンと戸をたたく音を聞くのは恐怖だった」
 母は優等生の中村に期待をかけ、高校を受験させた。父と別れた母と弟と東京に移り住み、進学校に入ったが、中村自身は点取り競争にむなしさを感じ、母の望むまっとうな道に魅力を感じなかった。
 なにしろ、高校時代に読んで感動したのがサマセット・モームの「月と六ペンス」。平凡な中年の勤め人が家族も地位も捨ててタヒチに渡り、絵描きとして自由に生きるという内容に心ひかれた。
 そこで、インドネシア語を学ぼうと東京外語大に進学した。ところがここは、南の島どころか商社をめざす学生が入るところだった。たまたま出会った演劇にはまり大学を中退。俳優の世界を選ぶ。

■テレビ局にも筋通す
 「紋次郎」の成功以降も、筋を通す姿勢は一貫していた。73年のフジテレビ系ドラマ「追跡」で、局は5人に脚本を依頼し、その中にアングラ演劇の人気者、唐十郎がいた。案の定、難解なものができ、試写した局の幹部は勝手に放送中止を決めた。主演していた中村はこれに怒った。「唐が何者かをわかって頼んでおきながら、作品ができてからやめるとは何ごとか」。だが中止の決定は覆らず、中村は番組を降りた。放送も打ち切られた。
 その後コメディーもメロドラマも演じたが、10年もたつと、俳優業に飽き飽きしてきた。東南アジアに取材に行き、83年に国際小説「チェンマイの首」を出版。翌年にはTBS系の情報番組「地球発22時(のち23時)」のキャスターに抜擢(ばってき)された。
 この番組でも、局と衝突した。85年、米国亡命中の金大中が韓国に帰国する前、中村はワシントンで単独インタビューに成功したが、政治的圧力で局側が放送できないと言ってきた。中村は怒る。「スクープを前提にインタビューしたのに、何を今さら。放送しないなら責任をとってキャスターを辞める」。結局、インタビューは放送された。
 88年4月、放送時間枠の変更に対し、中村が批判的な発言をしたとして、局側は中村を降ろしてしまった。
 だが1年半後、中村は別の局の情報番組のキャスターに復帰する。「どっちが筋が通っているか、周囲は結構わかってくれる。だから干されない」。普通の人には逆風と思える状況でも、くじけず順風に変えてしまう魔術を、中村は持っているかのようだ。
 キャスター業をするうちに、日本という国が見えてきた。「政治や行政がデタラメだ」。そんなとき新党さきがけから、参院選に出ないかという話が来た。

   (10/9 朝日新聞【be】「逆風満帆」中)

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