歴史的文豪の作品でもないのに、初版から30年も経って再刊とは異常な出来事である。これは、現在進行中の宗教スキャンダルと連動している。
物語は、うだつの上がらぬ中年の私立探偵が、カルト集団に息子を奪われた老人の悲劇を見兼ね、柄にもない仏心を起こしたことから始まる。救出作戦のドタバタと並行して、勧誘された2人の若い女性が、信仰にのめり込んでゆく過程も描写される。
この小説の特徴を一言で言えば、マインドコントロールのマニュアルの解剖である。普通の人の人格が破壊され、思考力や判断力が奪われ、全ての言動は上司の命令によって決定されるというシステムの紹介である。
この団体の本性は、宗教の仮面を被った不安産業であり、政治活動を装って権力奪取を試みる陰謀集団である。この小説は、30年経っても、この国では同じことが繰り返されていることを証明している。
中村敦夫 著
出版社:講談社文庫
発売日:2022年11月15日 発売
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