東京都内からは、かなり移動に時間がかかる。普通電車を使うので、長時間席につけないと、そのまま公演に入るのはきつすぎる。
 そんなわけで、前日の夕方入り。東武鉄道野田市駅は、停車場のように小さく、周囲は工事現場で、灯のともっている店や建物も少ない。
 タクシーを拾い、幹線道路を15分走ってビジネスホテルへ行くようにという指示があった。だが改札を出ても、タクシーどころか、歩いている人すらいない。やっと小さな交番を見つけ、一人だけいた若い警官にタクシー乗り場を教えてもらう。「待っていてもタクシーは来ませんよ」。 
 警官は変なことを言った。目立たぬ小さな標識を見つけて、意味が分かった。「御用の方は電話下さい」と書いてある。電話をすると、民家のような感じで、中年のオジさんが「しばらくしたら迎えに行く」と言った。ひょっとして、この町には一台しかタクシーがないのかと思ったら、急にオカしくなって笑いがとまらなくなった。野田市は「大都市」のイメージがあったのだが、これはこれでまことにユーモラスで個性的だ。
 翌日の公演は、330席の欅ホール(小ホール)は満席。昔の知り合いが、何組も訪ねてきたのでびっくりした。本当に不思議な町だ。